日本の縫製工場の魅力とは?

日本の縫製工場の現状

今、日本の縫製工場は縮小や廃業、倒産に追い込まれている工場が多く、今後ますます増加すると見られています。

特に50人以上の大規模な縫製工場というのは、国内にはほとんど残っていない状況です。

その原因としてコロナウイルスの流行を境に世の中の価値観や経済状況が大きく変化し、人々がお金を使わなくなったことも影響しています。

海外の安い縫製工場を製造の拠点としたファストファッションが流行し、安くてもある程度品質の良い洋服が買えるようになったこと。フリマアプリが消費者にとって身近になり、店舗で新品を商品を購入する人が減ったこと等、洋服やファッションアイテムに対し低コストを求めるようになりました。

そのため日本の縫製工場への受注は減少し、当然工場の賃金も下がります。

低賃金であるため若い人が集まらず、従業員が高齢化。そして日本人の新しい人材が確保できないため外国人の技能実習生に頼っている状態となる等、維持していくことが難しくなっているのです。

日本の縫製工場5つの魅力

ただ一方で、多くの低コストを求める人たちとは逆に、より高級志向を高めている人たちもいます。

「量より質に重きを置き、流行に左右されず長く使える物を。」

そこで次に、日本の縫製工場の魅力を紹介してまいります。

縫製技術の高さ

日本の縫製工場の魅力といえば、やはり世界でも群を抜いてレベルの高い縫製技術でしょう。

高齢化したとはいえ、日本の縫製工場にはまだまだ高い技術を持った縫製士の方がたくさんいらっしゃいます。

縫製工場は機械化が進みましたが、品質の高い製品は職人による手仕事での仕上げや調整を行っているため、その細かく丁寧な質の高さが世界でも評価されているのです。

また、数は少なくとも業界に入った若者にその技術を継承し、更に若者ならではの発想で新しい時代に沿ったものづくり、環境づくりといったものに取り組んでおり、より高品質な製品を生産することを可能としています。

きめ細やかな対応

まず、日本の縫製工場ですから当然日本語でコミュニケーションをすることが可能です。

海外の縫製工場に依頼をしたことがある方にとって、これがどれだけ重要なことか痛感されているのではないでしょうか。

細かな指示や変更、要望等も正確に情報を伝えることが出来ることは、良い製品を完成させることにつながります。

製造を進める中で、デザインやカラー、サイズ、プリント、パーツ、生地など様々な変更点が出てくることがありますが、コミュニケーションが上手く取れないとその度に進行がストップし、各方面に負荷がかかってしまいますよね。

他にも、日本の縫製工場では小ロットの生産に対応できる設備や技術を持っている工場が多く、必要に応じてカスタマイズ出来る点も大きなメリットと言えます。

納期の早さ

日本の縫製工場に依頼すると、海外の縫製工場と比べて短い納期で納品することが可能となります。

海外に発注をした場合、縫製が早く完了しても日本までの輸送にどうしても時間がかかってしまいますし、もし納品された製品に不具合や問題が見つかった際、更に時間がかかることになりますしクレームに発展する恐れもあるでしょう。

質の高い製品を早く納品することで、結果的に海外よりも全体のコストが抑えられることもあるのです。

知的財産の保護

日本では特許法、商標法、意匠法など知的財産権に関する法律が整備されています。

そして日本で生産された商品はこれらの法律が適用されます。

自分のブランド、会社のブランドの価値や信頼性、デザイン、技術などを守りたければ、これらの法律を容易に活用できる日本での製造がやはりおすすめです。

地域への貢献

日本の縫製工場は都心部よりも地方に多く存在しています。

地方では仕事が少なく若い人が都心へ流出してしまうといったことが起こっているため、縫製工場が元気になれば新たな雇用を生み出し、地域の活性化にもつながる可能性があります。

まとめ

以上のように、日本の縫製工場を取り巻く現状は厳しい状況ではあるものの、世界に誇る日本の高い技術を求める人たちもいます。

また、自分のブランドを作りたいと服作りに夢を抱く若者もたくさんいます。

そんな縫製工場とアパレル業界を目指す人、会社をつなぐため、縫製屋ドットネットはマッチングサービスを提供しています。

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【アパレルとSDGs】業界が抱える問題と取り組み事例

現在、日本を含む世界中でSDGsに基づいた行動が推奨されています。その中でもアパレル業界は、数年前から現在に至るまで多くの問題が取りざたされており、SDGsへの取り組みがますます注目を集めています。

そこで今回の記事では、SDGsの概要からアパレル業界が抱える問題点、そして業界が取り組むべきSDGsに向けた目標について詳しく解説していきます。ぜひ最後までご覧ください。

SDGsとは何か

今や多くの人々に浸透しつつあるSDGsですが、その基本的な概要を紹介します。SDGsは「持続可能な開発目標」を意味し、2001年に制定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2030年までに持続可能でより良い世界を目指すための国際目標として、2015年に国連サミットで採択されました。

SDGsは、17のゴールと169のターゲットから構成され、「地球上の誰一人取り残さない」という誓いのもと、発展途上国だけでなく先進国も含め、全ての国々が取り組むものです。

<SDGsの17の目標>

1.貧困をなくそう

2.飢餓をゼロに

3.全ての人に健康と福祉を

4.質の良い教育をみんなに

5.ジェンダーの平等を実現しよう

6.安全な水とトイレを世界中に

7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに

8.働きがいも経済成長も

9.産業と技術革新の基盤をつくろう

10.人や国の不平等をなくそう

11.住み続けられるまちづくりを

12.つくる責任つかう責任

13.気候変動に具体的な対策を

14.海の豊かさを守ろう

15.陸の豊かさも守ろう

16.平和と公平をすべてのひとに

17.パートナーシップで目標を達成しよう

アパレル業界が抱える問題

アパレル業界、特に「ファストファッション」と呼ばれる業態は、SDGsで掲げられているいくつかの目標に対して深刻な問題を抱えています。ファストファッションは、日本だけでなく世界中で高い人気を誇り、多くのブランドが世界に展開しています。代表的なブランドは以下の通りです。

 

<ファストファッションブランド一覧>

ユニクロ(日本)

GU(日本)

しまむら(日本)

無印良品(日本)

H&M(スウェーデン)

ZARA(スペイン)

GAP(アメリカ)

SHEIN(中国)

これらのブランドは誰もが知っており、非常に身近で、多くの人が一着は持っているブランドでしょう。特に最近、YouTubeなどのSNSで注目を集めているSHEINは売上が急増し、2022年にはトップクラスのブランドに成長しました。

しかし、ファストファッションには大きく分けて2つの問題、すなわち「環境問題」と「労働問題」が存在します。

 

環境問題

服 廃棄

アパレル業界は繊維産業であり、その多くがポリエステルやレーヨンといった合成繊維、つまりプラスチックを原料としています。私たちが普段着ている衣料品のほとんどは、石油を基にして作られています。ペットボトルのリサイクルや、レジ袋の有料化、プラスチック製ストローの廃止などからもわかるように、プラスチックは海洋汚染や地球温暖化に大きな影響を与えており、さまざまな業界でその削減が進められています。

一見、プラスチック製品には見えない洋服も、製造や染色の過程で有害な化学物質が放出されたり、家庭で洗濯するだけでマイクロファイバーやマイクロプラスチックが海に流出しています。また、合成繊維の製造工程では、大量の化学薬品や農薬、有害物質が使用されており、これが大気汚染の原因にもなっています。アパレル業界から排出される温室効果ガスの量は、年間12億トンのCO2に相当します。

さらに、ファストファッションは安価なため、消費者は簡単に購入し、簡単に手放してしまう傾向があります。断捨離ブームの影響もあり、環境省の調査によれば、日本では一年間に一人当たり約12枚の衣服が捨てられているという結果が出ています。捨てられた衣服のほとんどは焼却されるか埋め立てられ、その量は年間で約48万トンに達します。アメリカでは、年間1150万トンが廃棄されています。

このような環境問題は、合成繊維だけでなく、天然繊維でも発生します。たとえば、綿花(コットン)の生育には大量の水と殺虫剤が必要であり、羊毛を取るための放牧も土壌や水質の汚染につながり、生物の多様性に悪影響を及ぼします。天然繊維だから環境に優しいとは限らないのです。

「簡単に買って、簡単に捨てる」という消費行動が、私たちの地球環境に悪影響を与えていることを理解する必要があります。

 

労働問題

ファストファッションをお持ちの方は、商品のタグを確認してみてください。ほとんどがアジアで製造されていることに気付くでしょう。特にバングラデシュで製造された商品が多いことがわかると思います。アジアでの製造が多い理由は、低コストで大量生産が可能だからです。

しかし、アパレル製造に従事するアジアの労働者の多くは、低賃金で働いています。中には最低賃金すら支払われず、残業代も支給されないケースも少なくありません。そのうえ、長時間労働を強いられ、児童労働や強制労働といった人権侵害も深刻な問題となっています。さらに、労働者が働く工場の安全性や衛生環境も劣悪なことが多く、事故が発生して労働災害や健康被害を受けることもあります。

発展途上国の労働者を搾取するような労働条件は、早急に改善・対処されるべきです。しかし、このような問題が報じられているにもかかわらず、ファストファッションの売上は年々増加しています。

 

アパレル業界のSDGsに対する取り組み

アパレル業界は、これまでに挙げた問題に対応するため、SDGsに基づいた取り組みを進めるブランドが増えてきています。この取り組みは、「リデュース(削減)」「リユース(再利用)」「リサイクル(再資源化)」の頭文字を取った「3Rとして知られています。以下、それぞれの取り組みについて事例とともに紹介します。

 

リデュース:削減

リデュースは、無駄な資源の消費や排出されるごみを減らす取り組みです。アパレル業界においては、服を購入する際に、似たようなアイテムをすでに持っていないか確認すること、流行に左右されず、長期間にわたって着用できるものを選ぶこと、正しい手入れ方法を知って大切に着ること、そして労働環境の改善を行うことで、環境への負担を減らしていきます。

 

リユース:再利用

リユースは、まだ使用できるのに廃棄される服を再利用する取り組みです。リサイクルショップや古着屋、フリマアプリを活用することで、服を捨てるのではなく再利用することを推進しています。また、企業も消費者と同様に、廃棄される予定だった在庫品を必要とする人に提供し、再循環させる取り組みを進めています。

 

リサイクル:再資源化

リサイクルは、不要となった服を生地として再利用し、別の製品に作り替える取り組みです。アパレル業界では、不要な衣料を他のデザインの服やバッグ、タオルなどにリサイクルする活動が行われています。また、リサイクル可能な繊維を使った製品開発も進んでおり、不要になった服はリサイクルボックスで回収されます。先に紹介したような大手ブランドでは、店舗にリサイクルボックスが設置されていることもありますが、アパレル業界全体のリサイクル率は、他の業界と比較するとまだ低いのが現状です。

 

EUで未使用繊維製品の廃棄禁止へ

ファストファッションなどでは、低価格で大量に生産されることから、未使用のまま廃棄される製品が多く存在します。この問題に対応するため、EUでは未使用の繊維製品の廃棄を禁止する措置が導入され、大企業から中規模企業へと順次適用が進められています。

この動きは、遅かれ早かれ日本にも影響を及ぼすことが予想され、繊維製品の生産量が減少する可能性があります。特に東南アジアの縫製工場では、発注が大幅に減少することが懸念されています。企業は、この変化にどのように対応するかを早急に検討する必要があります。

アパレル業界の動きとしては、東南アジアへの発注を抑え、実際の販売状況を見ながら追加の生産を行うという、新たなサプライチェーンの構築が進む可能性があります。国内の縫製工場にリードタイムの短い追加発注を行うことで、柔軟な生産体制を整えることが求められるでしょう。

また、廃棄ロスが減少することで、一定の原価上昇が容認される可能性があり、加工賃の上昇も期待できると考えられます。

 

アパレル業界が提案する新しい考え方

近年、「サステナブルファッション」という言葉をよく耳にするようになりました。これは、服の生産から販売、消費に至るまでの一連のプロセスにおいて、環境や社会に配慮した取り組みを行うことを指します。例えば、環境負荷を軽減するためにオーガニックコットンを素材として使用したり、長期的な雇用を基盤とした生産体制で作られた衣類を製作することが含まれます。

また、「エシカルファッション」という、フェアトレードな衣類を選び、倫理的な消費を促す考え方や、「スローファッション」と呼ばれる、1着を長く大切に着続けるスタイルも注目を集めています。これらの新しいファッションの提案は、SDGsの目標達成に向けたアパレル業界の取り組みとして、今後さらに広がっていくことでしょう。

まとめ

このように、SDGsを基盤に、世界は地球環境の改善や人々が安全かつ幸福に生きられる社会を目指し、それぞれの課題に取り組んでいます。アパレル業界においては、環境と労働に関する深刻な問題が近年、世界的な注目を集めています。私たち消費者が低価格の商品を大量に消費することも、こうした問題の一因となっていることが指摘されています。

問題を解決するためには、企業だけに責任を押し付けるのではなく、社会全体が一体となって取り組むことが求められています。特に、新たにアパレルブランドを立ち上げようと考えている方にとっては、SDGsに理解があり、持続可能な方法で対応してくれる工場を選ぶことが重要です。

縫製屋ドットネットでは、ものづくりに携わる皆さまの幸せを守るため、信頼できる工場選びをサポートしております。ぜひ、お気軽にご相談・お問い合わせいただければと思います。

アパレルが取り組まなければいけないSDGs

大量生産大量廃棄と言う現実

SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称です。2015年9月の国連サミットで採択された、17のゴールと169のターゲットからなる国際目標です。ビジネスの果たす責任や、地球環境の保全に関して取り組む目標です。今後、企業としてSDGsの取り組みに消極的だとユーザーから見なされると、批判にさらされたり不買運動に発展する可能性もあるので、避けて通れない課題になって来ていて、各国が目標を達成する必要がある事項です。

しかし、日本のアパレル業界はこのSDGsの流れに全く逆行するような大量廃棄を行っています。このまま大量廃棄を少なくすることに取り組んで行かない状況が続くと、持続可能な生産のパターンとは言えず、地球環境にもダメージを与え、さらに発展途上国の縫製工場の労働環境なども問題になる可能性が高いと思います。

食品ロスはマスコミでも多く取り上げられているので、一般の人も関心を持っていますが、アパレルの大量廃棄はまだ、一般には知られていないので、注目度は低いですが、今後、大問題に発展する可能性もあります。

アパレル製品(衣料品)の国内の年間供給数量は約29億点。それに対し、消費数量は約14億点と推定されています。その差は約15億点。これが、消費者の手に渡らず売れ残ってしまった余剰在庫の数です。

引用元:アパレル廃棄(衣服ロス)の問題 – アパレル業界に求められるサステナビリティへの取り組み

この15億点の余剰在庫のほとんどは、再流通すること無く、焼却処分されます。1年間で焼却される量は100万トンとも言われています。

何故、再流通しないかと言うと、本来の価格から大幅に値引きした商品が流通してしまうと、ブランド価値を棄損してしまい、ユーザーがブランドから離れてしまうからです。

もう一つは、売れ残った在庫を倉庫で保管する保管料が高くつくので、廃棄してしまうのです。

フードロスは土に帰るがアパレルは石油製品

フードロスは包装以外は廃棄しても土に帰るので、環境を破壊しませんが、アパレルのほとんどは石油製品で、天然素材の商品も縫製で使う糸は石油製品ですし、付属品もほとんどが石油製品なので、廃棄すれば確実に環境汚染になります。生地は綿でもファスナーなどの付属品などの素材は石油製品なので、土には帰りません。

使い古したり、購入したけど着なかった服は、オークションサイトなどでリサイクルされますが、売れ残った商品はほとんどリサイクルされずに廃棄されます。

古着としてアフリカなどへ輸出するなどして、日本国内では、売れ残りや古着が大量に溢れている状況は目にしませんが、アフリカの国の中には、繊維製品の輸入を禁止している国も出てきています。

機会損出を恐れて大量在庫を持つ

アパレルとしては、在庫が枯渇して、店頭に置く商品が無くなると、その棚に他のブランドの商品を置かれてしまうので、在庫が不足することを最も恐れます。もしも、自社の棚に他のブランドを置かれて、そのブランドの方が販売実績が良ければ、自社の売り場は必然的に狭められてしまいます。

また、ファッションは流行などにとても敏感なので、売れる時に十分な在庫を確保しておきたいと言う心理も働くのでしょう。

このことを恐れるあまり、余分に余分に発注すると言う流れになってしまうのです。余分に発注した結果が過剰在庫で大量の売れ残りが発生して、焼却処分になる訳です。

在庫

リードタイムの長さが過剰在庫の元凶

トヨタのカンバン方式のように売れた商品だけを生産する仕組みなら、過剰在庫は発生しませんが、繊維業界は、カンバン方式のようなプル型の生産方式ではなく、適当な需要予測で、在庫を積み増すプッシュ型の生産方式なので、需要予測を間違えると大量の在庫が発生する仕組みになっています。

さらに問題を大きくしているのが、原糸メーカーから縫製工場まで生産拠点が海外に移転してしまっていて、船での輸送も含めてとてもリードタイムが長いために、来シーズンの企画から納品までのリードタイムがとても長いので、直近の流行に対応して生産を調整するなどの木目細かい対応が出来ないことです。

生産した商品の半分以上を廃棄処分してしまう業界の体質は異常と言って良く、SDGsの流れに全く逆行する仕組みを何の疑いも無く続けている体質を改めなければいけません。

生産した商品の半分以上を廃棄すると言うことは、廃棄を無くせれば製造原価は2倍になっても良いと言うこと

生産した商品の半分以上を廃棄していると言うことは、売れる商品だけを作れば、製造原価が2倍になっても現状と同じ利益を確保出来ると言うことです。

廃棄しなければいけなくなるのは、服にしてしまうからで、原反の状態で、生地に鋏を入れなければ、倉庫に残ってていても、次の企画に生かすことが出来ます。

海外への発注を半減させて、追加フォローを国内の縫製工場を使う

生産した商品の半分以上を廃棄している現状からすると、海外の生産拠点に発注している生産を半減させて、店頭の在庫をaiなどで管理して、追加発注はリードタイムの短い国内の縫製工場を活用して、廃棄を極力少なくする努力が必要では無いかと思います。

海外の生産拠点への発注単価は発注ロットが減ることで多少高くなると思いますが、廃棄ロスを考えれば何も問題は無いはずです。

国内の縫製工場には、社員に十分な待遇を保証できて、長期的な継続が可能な工賃を提示して、短納期の対応をしてもらうことで、大量廃棄は回避できると思います。瀕死の状態の国内の縫製工場をこのまま放置しておけば、海外の縫製工場に大量発注した商品を廃棄する流れを変えることが出来ず、世界の環境保護団体などから批判される業界になり、廃棄の多い企業に対して不買運動が起こる可能性もあります。

このような最悪の事態を回避するためにも、海外の大量生産と国内のフォロー生産を組み合わせた、廃棄を大幅に削減する仕組みの構築が急務だと思います。

一昔前までは、大量生産、大量消費と言われて、ヒットしたブランドを誰もが着ている時代もありましたが、今は、消費者のニーズが多様化していて、大量消費はされなくなっているので、現在の生産体制では、消費者のニーズに合わなくなっているとも言えます。

国内縫製工場は絶滅危惧種

アパレルの国内生産は僅か3%

国内の縫製工場のアパレル全体にに占める割合は僅か3%までに激減し、97%は海外で生産されており、店舗で日本製のアパレル商品を見つけることはほぼ不可能な状態になっています。

海外生産の加工賃が基準となって、商品の販売価格も決まるので、国内の縫製工場の工賃はさらに下がっており、受注量も不安定になっています。

絶滅危惧種

コロナ禍で店舗での販売も激減

海外生産の流れが止まらない状況で、アパレルからの発注が減っているところに、コロナ禍がさらに稼働率の低下に拍車を掛け、元々ギリギリの経営状態だったのが、さらに悪化。

飲食店などの休業補償はありますが、上流の縫製工場には何も補償は無く、稼働率の低下が経営を直撃しています。

このままの状況が続けば、この機会に廃業を決断する経営者も増えるでしょう。

コロナ禍で国内の縫製工場の廃業が続けばアパレルの国内生産比率はさらに下がり、国内の縫製工場は益々絶滅の危機に直面します。

経営者は高齢化し後継ぎもいない

アパレルは国内の縫製工場を見捨てて海外に生産拠点を移し、元々ほとんど利益の出ない体質の縫製工場は、社員に良い待遇を示すことも出来ないので、若い労働者の確保も難しく、労働人口も減っています。

このような縫製工場の経営実態を知っている現経営者の息子などは、後継ぎにはなりたがらず、経営者の高齢化に伴って廃業が続出すると思いますので、今後残る国内の縫製工場は本当に少なくなると思います。

国内の縫製工場が完全に無くなることは無いと思いますが、現状よりも減少して行くことは間違いありません。

国内縫製工場の高い技術が失われていくのはとても残念なことです

ミシン

国内の縫製工場はとても高い技術を持っており、海外生産の商品とは一線を画す品質を提供できますが、ユーザーにとっては、その高い技術に対して高いを支払う程の技術だと思われていないのでしょう。

アパレル商品はファストブランドに代表されるように低価格化が進み、国内の縫製工場では生産できない程低価格になっています。国内の縫製工場に発注出来るアパレルブランドも限られて来ており、一部の高級婦人服など本当に一部です。

政府などが今更縫製工場を国内の主要産業として復興させるような予算を付けることも無いでしょうし、予算が付いたからと言って、国内の縫製工場の国際競争力が付くとも思えません。

縫製工場は経済成長する初期段階に投資も少なく労働力も集めやすい時代の産業で、完全に成熟している国ではもうなり立たなくなっている産業です。

このまま、絶滅して高い技術力が失われてしまうのはとても残念なことではありますが、時代の趨勢としてはどうにもならないことだと思います。

縫製工場はコロナ禍で瀕死の状況

店舗には支援金があるが川上には何の保証も無い

コロナ禍で緊急事態宣言が頻発されて、休業要請などが行われ外出に自粛などが要請されています。休業要請されている飲食店や百貨店などには休業補償がありますが、そこへ商品を納品している業者には何の補償もありません。

大手アパレルも軒並み赤字決算

コロナ

百貨店などをまだ大きな販路としている大手アパレルは軒並み赤字決算で、当然生産量も激減しています。国内に残っている縫製の仕事は、加工賃が高く、流行に左右される高級婦人服などが主で、流行にあま敏感ではない量産品は海外に完全にシフトしています。

流行に左右される高級婦人服は百貨店や店舗での販売比率が高いので、コロナの影響をモロに受けています。これに伴い、国内の縫製工場の稼働率は極端に落ちていて、元々利益の出ない体質なのに、受注が激減しているので、非常に厳しい状況に晒されています。

雇用調整助成金は受けられる

アパレルからの受注減に伴い、休業を余儀なくされる社員に対しては、雇用調整助成金で給与の支払いは出来ています。しかし、補償されるのは社員の人件費だけで、その他の固定費については何の補償もありません。

工場を構えていれば、それなりに大きい金額が毎月出て行くので、高収益体質では無く、内部留保も十分に無い縫製工場にとってはとても厳しい状況です。

コロナがいつ収束するのか

ワクチンの接種も少しずつ始まりましたが、国民全体に行き渡るのにどれだけかかるのか、そして、ワクチンが行き渡った後には、コロナ以前の状態が戻るのか、おそらくコロナ前の状態に完全に戻るとは思えません。

元々フル稼働で何とか収支トントンになっていた縫製工場が市場がコロナ前には完全に戻らないとなれば、フル稼働は難しいことも考慮しないといけないでしょう。

このままの状態が続けば、倒産や廃業が加速的に進む可能性もあります。体力が残っていない縫製工場はどんどん倒れて行くでしょう。

体力が残っている縫製工場はファクトリーブランドの立ち上げを

ブランド

まだ、多少なりとも体力が残っているのなら、自社ブランドを立ち上げて、ネット販売で、自分で売上げを立てられる体質に転換しないと、先行きは非常に厳しいものになるでしょう。

ファクトリーブランドの立ち上げを行って、ネットで販売と言っても、商品をホームページに掲載しただけでは売れません。しっかりとしたキーワード選定と、キーワードに合ったコンテンツを掲載して適切な集客の施策を行わないといけません。

ファクトリーブランドを立ち上げには、WEBマーケティングの専門家に依頼して、集客の戦略を立てて着実に実行する必要があります。

残されている時間は短い

自立した縫製工場に転換するのに残された時間はあまりありません。コロナ禍で稼働率が落ちて、体力もどんどん失われていく状況で、新たなブランドを立ち上げて、軌道に乗せるまでに掛かる時間と、体力の消耗との競争になるので、のんびりと構えることは出来ません。

みんなが酷い状況なので、誰も助けてくれません。自分の身は自分で守るしかありません。誰も予想していなかった厳しい状況ではありますが、少し手でも生き残れる強い縫製工場が生まれることを望んでいます。

縫製工場の廃業は何故止まらない?

仕事がきつい上に給料が安いので人を募集しても集まらない

縫製工場は、勤務時間は常に動きっぱなしで、仕事は決して楽ではありません。ミシンはほとんど自動化されておらず、手を動かし続けなければいけません。機械が自動化されていれば、機械が加工している時間が待ち時間になることもあるかも知れませんが、動き続けなければいけないので、仕事がきついです。

仕事がきつくても、そのきつさに見合う給料が支払われれば良いのですが、ほぼ最低賃金ギリギリの給料なので、社員を募集しても人材の確保はほとんど無理です。特に新卒の採用はほぼ不可能なのが現状です。

さらに、業界自体に将来性があり、今は大変でも明るい未来があれば、縫製工場に就職する人もいるかも知れませんが、将来に全く明るい光が見える訳でもありませんので、人材の採用はとても難しい問題です。

人材

給料が安いのは工賃が安すぎるからです

縫製工場の給料が安いのは、アパレルさんから支払われる工賃が安すぎるからです。1秒0.5円の工賃の仕事を100%の効率で働いたとしても、0.5×22,800秒×22日稼働=316,800円。これが一か月最大の売上げです。この売上げは直接人員が稼ぐ売上げなので、間接人員(事務員や営業、生産管理)の人員が全体の20%だとすると、総人員で割った一人当たりの売上げは253,440円です。ここから製造原価である糸の代金5%を引くと、一人当たりの売上総利益が240,768円。全国の最低賃金902円×8時間×22日=158,752円。会社負担の社会保険料が約20,000円とすると、人件費は178,752円です。これには退職金やその他の福利厚生費は含みません。有給休暇を月に1日使用すると、一人当たりの売上げ総利益は229,814円となり、労働分配率は77.7%となってしまいます。中小企業庁が公開している製造業の労働分配率は72.9%です。

労働分配率が高いのが給料が高いためであれば良いのですが、給料が安く労働分配率が高いのはとても大きな問題で、最低賃金を支払って労働分配率が高いと言うのは、経営を維持して行けないと言うことです。

一人当たりの売上げ総利益222,814円から退職金や福利厚生費を含まない人件費178,752円を差し引くと44,062円です。44,062円で水道光熱費や運賃(これは製造原価に含まれる場合もあります)や車両費、減価償却費、通信費などを支払うと、赤字になるのは確実です。資金繰りが酷く、銀行から運転資金の借り入れをしていれば、金利相当の営業外費用も発生します。

経営状態が極めて悪い縫製工場の後継ぎなどいる訳がありません

従業員に十分な給料の支払いが出来て、会社としても利益を生み、長期的な存続が可能で、将来にも大きな可能性があれば、誰でも後継ぎになりたいと思うでしょう。しかし、これだけ状況が悪い縫製工場の後継ぎをしようと思う人はまずいません。この状況でも後継ぎになろうとする人がいれば、それは相当のお人よしでないと出来ないと思います。

経営者になると、社員から給料が安いことを批判され、銀行からも経営を改善することを強く言われ、株主からも経営責任を問われるような役回りを誰も引き受けようとは思いません。

廃業

経営を改善するには縫製工賃の引き上げが必須です

このような縫製工場の経営を改善するには、縫製工賃の引き上げが必須ですが、縫製工賃は、商品の販売価格から逆算されるもので、簡単に引き上げることは出来ません。

さらに工賃の算出基準は、東南アジアの低賃金の労働者を使って服を作ることを前提にしているので、国内の縫製工場が十分な工賃の支払いを受けることはほとんど望めません。

商品の販売価格を引き上げると商品の売れ行きが悪くなるので、簡単に値上げは出来ません。家電品のようにスペックによって価格が決まるような商品であれば、高品質な商品は高価格になりますが、アパレル商品の品質を明確に定義する基準が無く、ファッションは個人の好みに依存してしまうので、工賃を引き上げる可能性など全くありません。

このような状況に置かれている縫製工場の廃業はこれからもどんどん進むと思います。

日本の縫製工場の現状

利益の出ない安い工賃

日本の縫製工場は利益云々の話しの前に、最低賃金が支払えるかどうかの状況です。アバレル企業から提示される工賃は、利益を生み出すどころか減価償却さえもできないような厳しい工賃で、長期的に安定した経営を続けて行くことは困難です。

現状を辛うじて維持するので精一杯で、将来へ向けての積極的な投資や人材育成などは全く出来ない工賃しか支払われていません。

様々な改善の取り組みを行って生産しても利益はほとんど出ません。

利益

厳しい労働環境は若い労働者が定着しない

安い賃金の上に、長時間労働や休日の少ない労働環境で、しかも工場ゆえに8時間働きっ放しで、自動化された設備などはほとんど無く、機械が加工している時間を待つようなことも無く、常に体を動かし続けなければいけない厳しい労働環境なので、若い労働者の確保は出来ませんし、もしも若い労働者が確保出来ても、しばらく務めると、その厳しさから退職して行きます。

将来性の無さから後継者もいない

上記のような経営環境から若い経営者が縫製工場の経営をすることは無く、後継者のいない縫製工場がほとんどです。

若い経営者ならITやロボットやAI関係など将来性のある事業を手掛けようとするので、製造業としても最も古い業態である縫製工場の経営など考える人はいないのです。

日本の縫製工場は、経営環境が厳しく、倒産するか後継者がいないので廃業する工場がほとんどで新規に創業する縫製工場など有り得ません。

将来性

賃金を安く抑えるために技能実習生を受け入れ

アパレルから提示される安い工賃に対応するのと、若い労働者が確保出来ないことを解消するために東南アジアから技能実習生を受け入れ、経営を成り立たせています。

彼女たちはお金を稼ぐために時間外労働もいとわずとても良く働きます。しかし、この技能実習生が日本の縫製工場をさらに窮地に追い込むことになっています。

技能実習生によって技能移転が進んで海外の縫製工場の品質が向上しています

昔は、中国製の縫製品の品質はとても悪かったのですが、日本で技能実習生として、日本の縫製の品質に対応した技術を習得して人たちが母国に帰って、自国の縫製工場で働くようになって、海外の縫製工場の品質は飛躍的に改善しています。

労働集約型の縫製工場の経営を左右するのは人件費なので、人件費が安い東南アジアの縫製工場の品質が改善すれば、差別化できるのは物理的な距離や通関手続きなどでかかる発注から納品までの日数しかありません。つまり日本の縫製工場が海外と戦って勝てるのは、短納期だけなのです。

短納期を要求される商品は、芸能人が着ていたとか特殊な事情で、一時的に爆発的に商品が売れて、在庫が底を突いて、追加発注を超短納期で作るようなオーダーしかありません。

このように、日本の縫製工場が必要とされることはほとんど無く、ほぼ全てのオーダーは東南アジアの工場に発注される状態で、日本の縫製工場はほとんど必要とされないような状態になっています。

1秒0.5円の工賃では縫製工場の経営が継続できない

アパレルからの工賃では最低賃金が支払えない

私が縫製工場の経営をしていた時は、アパレルさんから工程分析表で送られてきて、工程ごとに標準時間が記載されていて、総秒数によって加工賃が決まっていました。正味時間に20%の余裕率を加えた時間が標準時間となっていて、トイレに行ったり、手待ちや相談、打ち合わせの時間を全体の20%としています。ただ、実際の現場をワークサンプリングしても余裕率はなかなか20%には収まってはおらず、標準時間の設定自体が厳しいものでした。

取引していたアパレルさんは生地やファスナー、ネームなどの資材やパターンは支給でしたので、純粋な作業工賃でした。

デザイン提案などをすることも無く、アパレルさんが企画した商品を規格書や縫製仕様書を添えて発注されるパターンです。

1秒の単価は0.5円です。生産性が100%とした場合に0.5円/秒の工賃で稼げる金額は

0.5×28,800(8時間労働の秒数)=14,400円(直接人員1人当たりの稼ぎ高)

縫製工場は縫製、裁断、仕上げの直接人員だけでは無く、現場事務や生産管理、営業、検査員、社長などの間接人員がいます。サンプル試作をする工賃も支払われないので、それらの間接人員が全体の20%だとすると

14,400×0.8=11,520円(総人員割の1人当たりの稼ぎ高)

稼いだ稼ぎ高の中から糸代や電気代や減価償却費の支払いをしないといけません。糸代は製造原価なので、糸代が5%とすると、

付加価値高は10,944円

売上高から製造原価を差し引いた金額が売上総利益(付加価値高)です。

ここから労働分配率を65%と計算したとすると、

人件費は7,114円

労働分配率は付加価値の中から人件費をどの程度の比率で支払ったかを労働分配率の標準は50%と言われています。ただ、10台以上の編み機を一人で管理している工場の場合は、一人当たりの付加価値高は高くなるので、労働分配率は低くなります。このような産業の場合、重要なのは、機械一台あたりの付加価値高です。一方、縫製工場のような労働集約型で一人で最大でも3台のミシンを使うのが最大の縫製工場のような企業の場合の労働分配率は65~70%と言われます。

人件費を時給に換算すると、

889円

これは、全国の最低賃金でも県によっては最低賃金の水準を下回ります。ただ、社会保険料の会社負担分を差し引くと、実質的に全国最低の最低賃金をも下回ってしまいます。この金額だと、ボーナスや退職金や社内の懇親会のような福利厚生費は捻出出来ません。このような事態にならないようにするために販管費を徹底的に抑えて、労働分配率を75%以上になるようにします。建物は減価償却が終わっても新築などは行わず、修繕費も徹底して抑えます。この状態だと、短期的には継続できても、長期的な継続は不可能です。

さらに、工程分析表に記載されている標準時間が達成できる条件は生産枚数が2,000枚の時点の数値で、実際に発注されるオーダーは2,000枚より少なく、確実に最低賃金を割り込みます。

縫製の仕事は生産量が増えれば習熟して、作業が早くなりますが、生産量が少ないと習熟する前に生産が終わってしまって、作業が標準時間に達しないまま生産が終了してしまうことが多いのです。

生産性を上げるための様々な努力をする

生産効率を最大限にして0.5円/秒に対応するために、各工程の縫製仕様や品質基準、注意点などを記載して工程ごとに掲示したり、工程毎の時間測定を行って、ラインバランスを取って作業者それぞれの持ち時間を均一にして、スムーズな流れを作るようにしたり、時間が多くかかっている工程の作業指導を行ったりして、標準時間よりも早く生産できるように改善を重ねます。

このような改善の努力を行っても、経営を維持するので精一杯で、全く余裕の無い状態が当たり前でした。

年間安定稼働のために様々なアイテムを生産する

縫製工場で生産するアイテムは季節によって変わります。一つのアイテムしか生産しない工場だと繁忙期と閑散期の差が大きくなって、100%稼働してもギリギリの工賃なのに、稼働率が下がると経営が全く成り立たなくなってしまいます。そのため、私が縫製工場を経営していた頃は、500秒余りのTシャツなどのカットソーから5000秒程度の薄い中綿の入るコートまで生産していました。ニットも布帛も関係なく縫いました。

このような様々なアイテムへの対応はやりたくてやったわけでは無く、年間安定稼働するためにやむなく行ったことです。

工賃は益々厳しくなっているものと思います

縫製の仕事は人件費の安い東南アジアで生産するのが当たり前になっていて、海外の工賃が基準になってしまっていて、国内の縫製工場を取り巻く環境は悪化する一途だと思います。

コロナ禍で、サプライチェーンの見直しの動きもありますが、国内の縫製工場は疲弊し切っており、社員の時給も安く、工場の規模を拡大したり、新たに縫製工場の経営に乗り出すような人はいないと思いますので、国内に縫製の発注が戻ることは無いでしょうし、工賃が上がるような環境でも無いと思います。

厚生労働省が最低賃金を決めるのであれば、最低秒単価や最低分単価を決めて欲しいと思います。

参考までに建設業の人工代を記載します

・普通作業員21,100円

・特殊作業員24,200円

・軽作業員15,100円

・とび工27,000円

・石工27,300円

・ブロック工25,300円

・電工25,500円

・鉄筋工27,200円

・鉄骨工25,400円

・塗装工27,900円

・溶接工29,900円

出典は、建設業界の人工代とはどのような費用のことを指している?から転載です。公共工事の積算の時に使用する単価だそうです。縫製工場の秒単価が0.5円だと、直接人員の日当は14,400円で、軽作業員の一日の稼ぎ高にもならない。しかも縫製工場の場合、標準時間に到達しない作業をしてしまうと、実質の秒単価は0.5円を下回ってしまうのです。また、オーダーが小ロットになると標準時間には絶対に到達しません。縫製工場で服を縫う仕事は建設業界の軽作業よりも低い価値の仕事なのでしょうか?

服を縫い上げる作業者の技術は特殊技能であり、ましてや日本の細やかな品質管理は建設業の軽作業よりも高い技能だと思います。

0.5円/秒の一日当たりの稼ぎ高、14,400円は発注ロットが2000枚以上で最もコンディションが良い時の金額で、ほとんどの場合は、発注ロットが小ロットで、この金額を下回ってしまうのです。

積算根拠が明確なだけマシかも

0.5円/秒の単価はかなり厳しい経営を押し付ける工賃なのですが、この単価を提示してきたアパレルさんは、自社工場を持っていて、膨大なデータを蓄積して、工程分析表と標準時間を提示して、その上で秒単価を設定しているので、積算根拠が明確なので、まだマシかも知れません。縫製工場にここまでの情報を公開するアパレルさんは少ないものと思います。

このアパレルさんでは、ロット係数と言う数値も出していて、2000枚のロットで標準時間通りの生産が出来るので、1。記憶は定かではありませんが、1枚の場合は23倍とか、4000枚で0.8倍など、発注ロットによってどの程度の時間の割り増しが必要かの係数も細かく出ていました。

良く聞く話しでは、売価が先に決まってそこから逆算して、工賃はこれだけしか払えないと言って来るところもあるようで、縫製工場にしたらデタラメな工賃を提示して来るところもあって、工賃の根拠など何も無く、縫製工場が継続出来ようが出来まいが全く関係なく、自分の会社さえ良ければ良いと言う態度のアパレル企業がとても多いことも問題です。

私が縫製工場を経営していた時よりも工賃の相場は下がっていると思いますので、売上高を計算するのもイヤになる程厳しくなっていると想像します。

このような縫製工賃の実態からすると縫製工場を続けて行くのはもう限界に来ていると思います。

海外の縫製工場

ファッションに対する意識は個人差が大きい

ファッションに対する意識は個人差がとても大きく、自動車や家電品のような性能を客観的に示すデータは無く、個人の嗜好によるものだけで良し悪しが判断されます。

ある人は、極端に品質が悪く無ければ何でも良いと思う人もいれば、最先端のファッションをいち早く手に入れたいと思っている人もいます。

しかし、ファッション業界はバーゲンが当たり前で、定価で商品を買った人はバカを見ます。このようなユーザーに対して誠意の無い商売はすでにユーザーから見透かされていて、バーゲンを待って商品を買う人がほとんどです。

アパレルの価格政策はバーゲンを前提としたものにならざるを得ず、どの業態にもほとんど利益が出ないビジネスモデルになってしまっています。

仕事をお願いにアパレルさんに営業に行くと「中国価格ならいくらでも仕事はあるよ」と言われてしまいます。

しかし、アパレル企業とすれば、商品を売ってくれる人が一番大切で、商品が売れないことにはビジネスは成り立たず、販路を残すことが最優先になっているのが、縫製工場を大切にしない理由です。

そして、縫製工場のことは優先順位がとても低く、世界のどこからでも安く商品を調達することが出来ると考えているので、日本の縫製工場が継続して経営を続けることが出来るような工賃は提示されないのです。

縫製工場の立場はどこの国でも弱い

新型コロナでアパレル企業が支払い拒否

新型コロナの影響で、全世界の経済活動がほぼ停止してしまい、発注した商品の販売見通しも立たなくなり、季節性の高いアパレル関連の商品は、発注がキャンセルになったり、生産が中止になったりした事例が大量に発生しているようです。

全世界規模でウイルスが拡散して、ロックダウンなどの都市機能が停止する事態は経験したことが無く、企業としてもどう対処して良いのか分からない状態なのは容易に想像が付きます。

それでも驚かされたのは「コロナ危機が縫製工場の労働者を襲う!アパレル企業の9割が下請けへの支払いを拒否。と人権団体」と題された記事です。

内容を読むと、発注したオーダーで、縫製工場が生地などの資材を調達してしても、その代金を支払わない。すでに生産に入った商品も買い取らない。などのかなり横暴な対応です。

このようなことは、日本でも過去に起こっていたことで、大手スーパーのプライベートブランドを納品して、しばらくしても売れ行きが悪いと、商品に難癖を付けて返品するようなことが横行していました。

これは下請法で禁止されている、優越的地位の濫用にあたります。

他社との技術的優位を数値で訴えることが出来ない

縫製工場と言うのは、持っている技術を差別化する方法がありません。金属加工であれば、〇ミクロンの精度とか、特殊な金属を加工する技術など、他社より優位な技術を数値や商品で差別化出来ますが、縫製工場は明確に差別化出来る技術を取引先にアピールすることが出来ません。

なので、発注元であるアパレル企業は、縫製工場の1つや2つ潰れてもいくらでも替えはあると思っているのです。

縫製工場も替えはいくらでもあると思っているので、アパレルの横暴があっても、次の発注を得たいがために、我慢してしまうのです。

このような悪癖から脱するには、縫製工場が独自のブランドと販路を獲得するしか無いと思います。

縫製工場がインターネットでファクトリーブランドの販売を行って、それを時間をかけて認知度を高めて、縫製工場の重要な事業の柱に育てることです。

昔は、大手アパレルが独占していた、百貨店や大手スーパーの売り場を確保することは、ほぼ不可能でしたが、インターネット通販が当たり前になった今では、大手と対等とまでは行かなくても、工場の売上げの10%や20%をインターネット通販で賄うことは不可能ではありません。

この記事に書かれているような悲惨な状況を回避するためにも独自の販路を持つことはとても重要なことです。

作る技術はあるのだから販路さえ作れれば生き残れる

縫製工場は商品を作る技術は持っていて、自動車や家電品の部品を作っている工場と違って、作っている商品はそのままエンドユーザーに販売できる商品です。

トップブランドを作っている縫製工場も多くあるはずで、その技術でファクトリーブランドを作って売れば、着用したユーザーからはそれなのり評価はもらえるはずです。

アパレルからの発注に依存する体質から、自ら売る体質に転換することを真剣に考えないと、アパレルから使い捨てにされるだけです。

アクセスを確実に獲得出来るホームページを制作できる制作会社に依頼して、SEOを正しく行えば、売上げは確実に上がります。

日本の縫製工場は末期的状況

縫製工場はどこにでもある

縫製工場と言うのは、川上から川下までの一連の流れの中で最も弱い業態です。大手のスーパーなどユーザーに近い業態が最も強く、価格決定権があります。そのユーザーに近い業態から発注を受けてメーカーは原価を決めて、縫製工場に発注します。この時に利益を決定付けるのが工賃ですが、アパレル商品はバーゲンが前提で価格設定されているので、原価から算出される工賃の比率はとても低く、縫製工場が利益を生み出すのは至難の業です。

しかし、中国やベトナムなどに大規模な縫製工場があり、賃金も安いので、日本国内の縫製工場に発注するよりも安い原価で作ることが可能です。

さらに、日本からの技術指導や技能実習生として受け入れた人たちが本国に元どって技術が伝承されて、どんどん品質が向上しています。

なので、日本の縫製工場に発注するプライオリティはどんどん低くなっています。

その上、日本の縫製工場の労働環境はとても悪く、長時間労働、低賃金、年間休日も少ないなど、若い人たちが就職してもすぐに辞めてしまうので、高齢化が深刻です。

技術を数値化して差別化出来ない

縫製工場のもう一つの問題は、持っている技術を明確な数値として、他の縫製工場と差別化出来ない点です。

金属加工のような〇μの加工精度とか、他の工場では加工出来ない素材を加工出来る技術を持っているとか、明らかに差別化できる要素を交渉材料に出来ないので、中国やベトナムの縫製工場に発注するのと何が違うのかを明確に打ち出せないことです。

海外より優位なのは短納期のみ

中国やベトナムの縫製工場より優位に立てるのは、運搬にかかるリードタイムが短いことだけです。

リードタイムを差別化要因にすると、シーズンの初回発注は海外の大規模な縫製工場に発注して、販売を開始して見て、予想を上回るヒット商品になった場合の追加フォローで短納期の小ロット生産で生き残るしかありません。

そうなると、日本の縫製工場に発注される量は、アパレル商品の数%程度になるのではないかと思います。

現実に、日本国内の縫製工場はどんどん減少しており、「2018年の衣類(布帛外衣+布帛下着+ニット外衣+ニット下着)の生産と輸出入の推移」では、97.7%が輸入品です。つまり国内生産は2.3%で、日本国内の縫製工場は絶滅寸前と言っても過言ではありません。

国内の縫製工場はさらに高齢化が進み、若い経営者もいなくなり、絶滅に向かうのは避けて通れないのでは無いかとさえ思います。

ファクトリーブランドを作るしか無い

アパレルからの発注が今後改善されることは望めず、さらに海外依存が高まるのは避けられず、もう国内の縫製工場が生き残る余地はほとんど無くなっています。

生き残る方法として可能性があるのは、ファクトリーブラントを作って、自ら価格を決定して売ることです。

以前は、大手百貨店などが販売チャネルとして大きな存在でしたが、現在はインターネット通販に移っています。大手百貨店に売り場を確保することは、小さな縫製工場にはとても出来ることではありませんでしたが、インターネット通販は誰でも出来ます。

商品を作る能力はあるので、資材調達とデザインさえ出来れば、ファクトリーブランドを作ることが出来ます。

全体の生産量の10%でもファクトリーブランドで賄えるようになれば、将来の光が見えて来ると思います。

大手アパレルの追加フォローをしながら、ファクトリーブランドで利益の出る商材を持つことです。